大判例

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大阪高等裁判所 昭和30年(う)1028号 判決

被告人は昭和二七年九月二九日午前零時過頃京都市東山区今熊野日吉町一六番地の肩書自宅で京都市松原警察署巡査橋本博に対し陶器用石膏型を投げつけて同巡査の左頭部に全治五日を要する打撲傷を負わしめたものであるとの本件公訴事実につき原判決が論旨指摘のとおりの理由の下に被告人の本件所為をもつて正当防衛と認めて無罪の言渡をしたことは原判文上明らかである。ところで当審における事実取調の結果その他記録中の諸資料に徴すると本件事態発生の経緯はほぼ原判決認定のとおりであるが今熊野小学校における演説会場に臨場していた中倉巡査または田中巡査のいずれかからの報告に接した松原警察署警ら第二係長警部補四万三男は右報告により被告人に公職選挙法違反の容疑ありとしその現行犯と認めたが事案の性質上直ちに検挙を命ずることは演説会の秩序を紊し聴衆その他関係者との間に不必要な摩擦を生じひいては選挙妨害ともなる虞があるためこの種事件の検挙に関しては特にその点に留意し慎重を期する方針の下に処理していたので京都市警察本部内にある選挙対策本部の指示を仰ぐことにし会場内の警官に対しては現場保存及び証拠蒐集を確実にし何分の指示をするまで被告人の動静を看視するよう命じておいたが右本部から現行犯として逮捕するように指示して来たので四万警部補は巡査橋本博外数名の部下と共に被告人の帰途を擁してこれを逮捕すべく現場に赴く途中会場から帰つて来る被告人をその自宅附近の路上で認めそのまま同人を尾行して被告人方に行き同家表玄関の間において被告人に対し不必要な摩擦を避ける意図から一応任意同行を求めたところ被告人がこれに応じなかつたため当初の方針どおり現行犯逮捕の措置を採ることとし橋本巡査等に即刻被告人の逮捕を命じた結果同巡査は上司である四万警部補の右命令に従い他の同僚と共に被告人逮捕の実力行使に出たものであることが明らかである。そうだとすればこのような経緯の下に被告人の逮捕に臨んだ警察職員が右逮捕を真実職務の執行と信じ而もその信ずることにつき相当な理由があると認められる本件においては被告人が右公職選挙法違反事件の現行犯人であるかどうかの点につき法律上の疑義があるとしても右橋本巡査の被告人に対する実力行使は正にその公務の執行行為に外ならないものと解すべきであつて単なる暴力とするが如きは到底吾人の法感情が許さないのである。しかるに原判決が橋本巡査の右公務執行行為を単なる暴力と解し被告人の本件所為をもつて急迫不正の侵害に対する正当防衛行為と認めたのは事実を誤認し正当防衛に関する刑法第三六条の規定を不当に適用したことに帰しこの違法はもとより判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄すべく論旨は理由がある。

(裁判長判事 吉田正雄 判事 山崎寅之助 判事 大西和夫)

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